手順2:サムネイルでシーンを描く

いきなり大きな絵を描くのではなくサムネイルのような小さい絵を描いていく

コンテ打ちが終わったら、CLIP STUDIOを使ってシナリオのレイヤーごとに絵を描いていくフェーズに入ります。ここではいきなり大きな絵を描くのではなく、サムネイルのような小さい絵を描いていきます。最初からきっちりと描いてしまうと後々消すのがもったいないと感じてしまうので、そうならないようあえて雑な絵で描いています。

映像には「マスターショット」という位置関係や場所を視聴者に説明し、理解させるための概念がありますが、冒頭にはそのための画を入れる場合が多いです。今回の場合は、最初に舞台となる教室を後ろから撮ることで、登場人物や場所の説明が充分にできると考えました。なので、黒板を背景に先生や生徒がたくさんいるサムネイルを最初のシーンとして描いています。その際、窓の位置や光の位置、パンや引きなどのカメラワークも簡単に描き込んでおきます。


冒頭部分のコンテ案。視聴者に状況を説明するマスターショット(赤枠)となるサムネイルから始まる。



サムネイルを描き込めるように、CLIP STUDIOでキャンバスサイズを変更、レイヤーを1枚作り、描き込める余白部分を増やしている。




「なぜそうなっているのか」を理解しその上で自然な芝居を入れることが重要

先生の長いセリフや説明的なセリフ部分は、画を保たせるために切り返して生徒の顔を見せるカットを作ることもできます。過去の話を入れられそうな流れがある場合は、フラッシュバックで回想シーンを入れてもいいですね。

「ここは説明しなくてもいい」と感じた部分は、監督と相談した上であえて描かずに省いてしまう選択肢もあります。絵コンテには選択肢が多くあるので、どちらも描いておいて後からいいほうだけを残すというのも手です。

逆に、シナリオに書いていない部分を足してもいいでしょう。例えば、シナリオ上では先生がずっと説明をしているため、生徒たちは立ちっぱなしになってしまっています。であれば、先生の手振りで「座っていいよ」という動作を合間に入れてもいいですよね。絵コンテを描いたことのない初心者だと、どうしてもシナリオ通りに書いてしまうので「なぜそうなっているのか」という流れを理解し、その上で自然な芝居を入れることが重要です。実写であればその場にいるので流れが見えやすいですが、アニメの場合はそうではないので難しい部分でもあります。


生徒たちが順々に挙手するシーン。サムネイルの小さな絵だけではわかりにくい部分は文字情報(赤枠)で直接書いても問題ない。




鈴さんが描いた別のサムネイル制作例

別のシナリオをベースにサムネイルを描き込んだ状態。子ども向けの作品にしたい場合は、難しいカメラアングルは使わず、最初からマスターショットを入れ、喋るときはその人物を映すなどシンプルな構成で組むといい。「皆さんもさまざまなシナリオを使ってサスペンスやホラー、青春モノなど、いろいろなテイストのサムネイルを練習がてら描いてみてください」と鈴さん。








手順3:絵コンテを制作する

フォーマットに記入する情報

アイキャッチやCパートは作品によって存在しない場合もある

アニメの場合、フォーマットの1ページ目に作品タイトルや脚本家の名前、自身の名前、パートごとのカット数などを書いておきましょう。パートを細分化していくと、まず、「アバン」と呼ばれるOP前に流れるストーリー部分があり、OP、CM、サブタイトルと続きます。その後、前半となるAパートがあり、場合によってはアイキャッチAを挟んでCMとなります。続いて、アイキャッチBから後半のBパートとなり、EDの後にCパートという流れになります。アイキャッチやCパートは作品によってはない場合もあるので、そういった部分も監督とのコンテ打ちで聞いておく必要があります。

次に、パートごとの尺とコマ数を記載しましょう。ここでは「10分15秒:6コマ」といった形で情報を書いていますが、「600秒12コマ」など秒数だけで記載する人もいます。尺が決まったら、その尺よりも1〜2分ほど長い尺でコンテを作っていくのがいいと思います。最も困るのは尺に届かなかった場合で、長めに作っておいて後から編集で削る分には簡単ですが、後から尺を足すのは難しいということを覚えておきましょう。


絵コンテのフォーマット。1ページ目に必要な情報を入れておこう。




絵を描き始める前に

コンテに使う絵のクオリティはそこまで高くなくても問題ない

それでは実際に、先のシナリオと描いたサムネイルを見ながら絵コンテを描いていきましょう。

まず、一番上にパート名を記入します。左側の『カット』欄には本来カット番号を入れますが、後から変更する場合も多いため、この時点では丸だけ書いておいて番号はつけず、最後の段階で番号を振るのがいいかと思います。

絵コンテの場合、元々絵を描ける人であれば綺麗に描こうとする方が多いですが、正直なところ絵のクオリティ自体はそこまで高くなくとも問題ありません。ある程度の精度さえあれば絵コンテとしては充分で、私の場合ドアや窓なども全てフリーハンドで描いています。そのくらいの描き込みでもキャラクターの立ち位置や角度などは大体把握することができます。


先のシナリオ+サムネイルを画像として書き出し、サブビューを横に並べて絵コンテを制作していく。



サブビューはメニューの[ウィンドウ]>[サブビュー]から表示できる。







絵コンテ制作手順

絵コンテは撮影・美術・台本にも使われるためさまざまな要素を意識して描かなければならない

先のサムネイルを整理して『画面』の欄に絵を描いていきます。その際、『内容』の欄や枠外に「教室」「昼」などの捕捉説明も書いておきましょう。このように絵コンテは自由に描けるので、わかりづらい部分はその都度補足を加えていけばいいかと思います。ただ、文字ばかりだと読みづらくなってしまうし、絵コンテとは呼べないので、基本的には絵を見て伝わる形を目指すのがいいですね。

キャラクターの動きを表現する際は、矢印を入れるか、次のコマで動きの部分だけを丁寧に描くかのどちらかで、1コマに描ききれない情報量になりそうなときはコマを増やして描くようにしています。

また、カメラワークをつけたい場合は、レイヤーを変えて色つきの枠をつけ、視覚的にわかりやすくなるように工夫しています。

セリフがある場合は、内容欄に記載しましょう。カットを跨ぐ長いセリフの場合は、喋っている人物から別の人物へとカットが変わる場合もあります。その場合、セリフの間に「ON〜OFF」といった記載をするようにしています。これを書いておくことで台本作りの際にも役立ち、実際に声優や役者さんが台本を見ながら演技をする際に自分の演じるキャラが映っているのか、映っていないのかを把握しやすくなります。絵コンテは基本的にアニメーターのための指示書ではありますが、実際には撮影・美術・台本などにも使われるので、様々な要素を意識して描かなければいけないものでもあります。


❶ 昼の教室から始まる1コマ目では、全体がわかるマスターショットからスタート。引いていくカメラワークを赤枠で指示している。

❷ 2コマ目でキャラクターの動きを簡易的に矢印で表現。

❸ その間、先生はカットを跨いで長いセリフを喋っており、セリフ中もカットが切り替わっていくことがわかるコンテになっている。

カットを跨ぐ記号:セリフがカットを跨ぐ際に使用。

ON / OFF:画面に映っている/画面に映っていない状況を表す。主にセリフで使用。



映像にはなぜカットがあるのか?

全てのカットにおける動き、構図、カメラアングル、尺などを説明できるようになるのが理想的

ワンカットを長回ししなければならないような映像は別として、基本的に映像は小刻みになっていたほうが編集がしやすいですよね。もちろん、テンポ調整のためというのもありますが、単純に見せたい画をアップで見せられたり、見せたくないカットを切り替えられたりと、自由に演出できることこそがカットの役割なのかなと考えています。

自分のスタイルとしては、全てのカットに意味を持たせたいと思っています。それは何かを訴えるような意味合いだけでなく、さりげなくでも「こういう理由があってこのカットを作っている」という意図があればいいと思うんです。なので、後からコンテの説明を求められた際に、全てのカットにおける全ての動き、構図、カメラアングル、尺さえも説明できるようになるのが理想的です。

つまり、映像作品の演出とは情報のコントロールとも言えます。適切なタイミングでそれに合った演出を入れ、いかに感情を引き出すかを考えるのが絵コンテの仕事であると考えています。






尺の調整

尺を計測するときはセリフを声に出しながら測るのがコツ

次に、右側の『秒』欄にカットごとの尺を記載していきます。尺を測るときはストップウォッチを片手に、1カットずつ必要な秒数を測っていきましょう。

例えば、最初のカットに必要な尺が3秒ちょうどであれば書き方は「3+0」となり、プラスの横の数字はコマ数を表しています。アニメの場合、1秒あたり24コマでできているため、基本的に0〜24の数字が入ることになります。「3+0」であれば、3秒ちょうどという意味ですね。

ただ、コンテ段階では5コマや7コマなど細かく刻む必要はないので神経質になり過ぎず、小さくとも3コマ刻み、基本的には6コマ刻みを推奨します。

秒数を測るときは絵コンテの1コマごとに測るのではなく、一連のカットをまとめて測りましょう。また、実際に尺を測る際は、ボタンを押す反応速度でズレが生じることもあるので、基本的にラップ機能のあるストップウォッチを使うといいと思います。計測する際のコツとしては、セリフを声に出しながら測ることです。

最後に、一番下にある『TOTAL』の欄に、このページの合計秒数を書いておきましょう。


右欄の『秒』に記載されているのが各カットに必要な尺。「3+0」の場合は3秒ちょうど、「2+6」の場合は2秒と6コマになる。上図の場合、このページのコンテの総合的な尺は5秒+6コマとなる。




尺が想定よりも短いor長い場合は?

尺が長くなってしまった場合は移動シーンなどでうまく“間を盗む”

一通り描き終えてみて尺が足りなかった場合は、どこかに間を作ったり、BG(背景)を入れることもありますが、芝居を足すのが最も簡単な方法です。元々、カット候補になっていた部分を戻してあげたり、ワンアクションを追加することも多いですね。ただ、シナリオの行間を読んできちんと補間しながら描いていけば自然と埋まっていくので、足りなくなることは滅多にないかと思います。大抵は尺よりも長くなってしまうケースのほうが多いです。

尺よりも長くなってしまった場合は、説明的なセリフや「ここは喋らなくても絵として見せればいい」というカットを削っていきます。また、移動のシーンなどはうまく”間を盗む”ことを意識しており、私の場合は実写映画を参考にしている部分があります。

『ダークナイト』という映画ではバットマンがいろんなところを飛び回りますが、移動しているシーン自体はあまりないんです。例えば、タクシーに乗ったと思ったら次のカットではもう降りているなど、大胆に切っても意外と伝わるのでそういった間の盗み方を参考に調整しています。なので、いろんな作品の編集の仕方を意識して見るのが大事だと思います。

また、アニメは何よりも作画が大変なので、極力短いカットを作っていくよう意識しています。最近のアニメはセリフも増えているためその限りではないですが、昔は3〜4秒が限界と言われていました。必要ない部分を可能な限り切っていくことで作画もテンポ良く進めるようになります。



鈴さんの描いた別の絵コンテ例

鈴さんが描いた別の絵コンテ例。赤字部分は本来のコンテには記載されない補足説明。「基本的には絵がメインで、どのような芝居をするかをなるべく分かりやすく描き、ト書きも簡潔に書くのが望ましいです」と鈴さん。鈴さんのブログにて、より詳細な解説がされているのでチェックしてみよう。








絵コンテに対する考え方

アニメならではのカットの作り方

実写にできない嘘をつくことでアニメならではの表現が可能になる

アニメの場合、実写ではできないようなカットも数多くあり、そういったカットをコンテに入れていくことで自由度が増します。例えば、戦闘シーンのようなカットでふたりが向かい合っていて、手前からカメラワークが回り込むようなシーンは、実写だと建物や建造物が大抵存在しているのでそこまで回り込めないんですよね。ただ、アニメであれば嘘をつくことでそういったシーンも表現可能になります。また、魚眼レンズを切り取ったような極端に歪んだパースなどもアニメならではの要素ですね。

実写とアニメで見比べると特に違いが分かりやすいのは構図です。実写のアイレベルは基本的に真ん中が多いですが、アニメはどちらかというと、カメラに映っている絵をさらに切り取り、欲しい画にすることが多いです。


実写の場合にも魚眼レンズを使うことで歪んだパースでの撮影をすること自体は可能だが、アニメの場合はさらに部分的に切り取ることもできるので、自由な発想でカットを考えることができる。




コンテを描く際に意識すること

絵コンテで最も大事にしているのは誰の視点で物語を伝えているのかということ

コンテを描く際に意識しているのはテンポやフレーミング、自然な芝居などさまざまな要素がありますが、特に大事にしているのは物語の視点です。要は、「誰の視点で物語を伝えているのか」という部分です。

例えば、脇役のキャラクターがずっと真ん中にいたり、明らかに主人公であるはずのキャラクターなのに、なぜかずっと端っこにいたりすると、誰視点の物語なのかが分かりにくくなってしまうため、あまり良くありません。また、視点はシーン内でも変わることがあります。話の内容に合わせて変えることで、感情移入を誘導しやすくなり、カメラの位置取りでコントロールすることができます。

フレーミングに関しては、実写と同様に物を使って画面を遮ったり、光を当てるなど見える範囲を狭めることで、見せたいものに注目させることを意識しています。構図に関しても、実写で使う安定した構図を理解することで不安定な画面を作ることもできるため、定番の構図は映像の文法とともに勉強しておくといいかと思います。



魅力的な絵コンテを描くために

絵コンテには画力もある程度は必要だが頭の中でイメージできるかのほうが大事

魅力的なコンテを描くためには、まず好きな作品を真似てみることから始めるのがいいと思います。「この作品が好きだ」と感じたら、どんなところが好きなのかを言語化してみましょう。ストーリーが好みであればどこが分かりやすかったか、どんでん返しがあるほうが好きかなど、言語化することで次に自分でコンテを描くときに、好きな部分を意識して描くことができるようになると思います。

絵を描くこと自体はある程度の画力が求められますが、絵コンテの場合は頭の中でイメージできるかのほうが大事です。雑な絵でも構わないのでたくさん描いてみて、自身のレパートリーを増やしていくことが大切です。

また、コンテの画は全てが格好良くなければいけないと誤解されがちですが、実際にはもっとシンプルなカットでいいんです。例えば、クリント・イーストウッド監督の映画はどの画もすごくシンプルですよね。物語は、お洒落なアングルでなくともストーリーや意図が視聴者にしっかりと伝わればいいんです。「いい絵コンテにしよう」と意気込み過ぎてしまうと、途中から思い浮かばなくなって進めなくなるような事態に陥ってしまうので、まずはシンプルなカットから始めて、ある程度慣れてきたら冒険してみるのがいいんじゃないかなと思います。